2008年2月24日。
茨城県水戸市のアートワークスギャラリーで、谷川俊太郎さんと松本美枝子さんのサイン会とトークイベントが開催されました。当日は春の嵐が吹き荒れて次々と電車がストップしたにもかかわらず、会場は立ち見のお客さんも出るほどの大盛況。詩の朗読やスライドショーを交えて行われたイベントの模様をお届けします。





第4回 向き合って撮る写真が好き

写真詩集『生きる』には、50数点の写真が入っていますが、実は、写真家の松本美枝子さんがこの本のために撮った枚数は、なんと200枚以上! その中から、最後まで迷ったカットを、ちょっぴりご紹介します。本に使用されている写真と、よく似ているけれど微妙に違うカットも。…どれだかわかりますか?

写真で物語を語ることもできる

【松本】
谷川さんはよく、いろいろなところで
「僕は小説は書けない」というような話をされるじゃないですか。

【谷川】
はい。

【松本】
私も、もし、今後いろいろな映像の仕事をしたとしても、
やっぱり映画はちょっと自分には無理だな、と思うんですね。
物語のように、時間の流れを追っていくものはむずかしいな、と……。

【谷川】
「歴史的」というよりも「空間的」なんだね。
でも、僕がいま参加している、
ヤーチャイカ」という映画は写真を使ってるんです。
全部スチール写真で構成しているの。

【松本】
そうなんですか!
谷川さんはどういう形で参加されているんですか?

【谷川】
脚本・監督は覚和歌子さんで、僕はお手伝いしてるんですけどね。
首藤幹夫さんっていう写真家が、全部写真を撮ってくれて、
それを編集して映画にするから、動いている映像は全然ないんです。
全部、静止映像なんですよ。

【松本】
じゃあ、スライドショーみたいな。

【谷川】
そう、かんたんに言うとね。
もちろんナレーションが入って、音楽が入って、
一部分、動く映像も入ったムービーではあるんですけれどね。
僕が仕事を始めたばかりの頃に、アメリカで
「フォトストーリー」っていうのが流行ったんですよ。
それは、フィクションで、主人公をつけて、
スチールの映像で短い物語を語らせる、
というようなものだったんです。
それの真似っこを、日本のジャーナリズムもやっていて、
僕は、そういうものの脚本を書いたりもしていたのね。
だから、松本さんの「空間的にやりたい」という気持ちが
ひとつの自分の生まれつきの資質であるとしても、
写真で物語を語ることも、可能ではあると思いますよ。

【松本】
うーん。

【谷川】
だから、もしかしたら今後、ストーリーをつむぐほうに
興味がいくこともあるかもしれないですよ。
物語がすべて、風俗小説みたいに、
わかりやすい物語である必要はないわけだから。

【松本】
そうですね。
文章を書くことにはすごく興味があります。


押入れの中は、フィルムだらけ!

【谷川】
今日は松本さんが、いろいろ持ってきてくれているから、
ちょっと、それをみなさんにお見せしましょうか。

【松本】
はい。今回、写真詩集『生きる』を作る際に、
本に入れるか入れないか、迷った写真を持ってきました。
谷川さんは、編集の間は、写真はご覧になりました?
ボツ写真なんかは……。

【谷川】
たくさんは見てないですね。
ある程度そろってから見たので。
全部デジタルですか?

【松本】
いえ、今回は全部フィルムですね。

【谷川】
月にどれくらい撮っているの?

【松本】
まあ、数百枚くらいですね。

【谷川】
でも、どんどんたまっていくでしょう?
整理とか大変だよね。

【松本】
だからもう全部、私の部屋には、
洋服が入るべきところに写真が入っているんです。
私の押入れは、全部フィルムだらけ!

【谷川】
ははは!


生きる
(c)松本美枝子

【松本】
(スライドを見せながら)これも入れるかどうか迷ったんです。
私、得意分野ってやっぱり子どもとおじいさん、おばあさんで、
そういう写真をいっぱい撮っているんですね。

【谷川】
わりとしょっちゅう、カメラを持ち歩いて撮っているんですか?

【松本】
いつでもは撮らないですね。
撮ろうと思って撮っています。
「スナップで隠し撮り」みたいなのがいやなんです。
被写体と、向き合って撮りたいんです。
よく、スナップでその人の素を撮ったほうが、
その人の自然体だというけれど、
私はそれはあんまり関係ないかなと思っています。
たまにはスナップで、
自然な表情をさっと撮ったりもしますけれども、
ほとんど声をかけて、被写体と向き合って撮りますね。

【谷川】
でも、向き合って撮るのって、こわくない?
僕なんか若い頃、すごいこわくてできなかったんだけれど、
わりと平気?

【松本】
いや、私も若い頃はできなかったんです。
新井さんに褒められて、「SWICH」で初めて仕事をもらうまでは、
自分自身しか撮ってなかったんですよ。

【谷川】
ほんと! 

【松本】
暗いですよね(笑)。
自分を撮ってたんですよ、三脚立てて。

【谷川】
それも一種のナルシシズムなのかもね。
でも、肖像権とかうるさいんじゃないの、最近は。

【松本】
一応、カメラマンをやっているから、
この写真も雑誌とかに載るかもしれない、
と断っておくと、大体は大丈夫ですね。
旅先などでは、初対面で仲良くなって、
撮らせてもらったりしますね。


1つのシーンで最低5カットは撮影

インタビュー風景
(c)松本美枝子


【谷川】
この人たち外国人?

【松本】
はい、台湾の人たちです。
外国のほうが、もっと気軽に撮らせてくれます。
この人たちも、行きの飛行機で仲良くなったんです。

【谷川】
へえ~。


旅の仕組み
(c)松本美枝子

【松本】
この写真もいいなと思ったんですけれども、
ちょっと台湾色が強すぎたので、今回はわりと日本のイメージで
まとめたかったので外しました。


旅の仕組み
(c)松本美枝子

【松本】
これも、似たようなカットがあって迷ったんですが、
結局これは使わず、別のカットにしました。

【谷川】
似たようなカットは、たくさん撮ったんですか?

【松本】
撮りましたね。
ひとつのシーンで、ピントをずらして何種類か撮るし、
角度とかタテ、ヨコも変えて撮ります。
とりあえず、少なくとも5カットくらいは撮って、編集していきます。
ピントを変えて、何種類かは撮りますね。ピントは大事なので。

【谷川】
なるほどね。


ファントム
(c)松本美枝子

【松本】
これは恐山に行って、イタコさんに会ったときの写真。

【谷川】
これイタコさん?

【松本】
そうなんです。
このとき、死んじゃって
私は会ったことのないおばあちゃんが出てきて。
本当かどうかわからないんですけれども、
半分くらいは当たってるんですよね。
だから、信じることが大切だなと。

【谷川】
ほんとそうだよね。

【松本】
すごくおもしろかったです。
撮影はむずかしいかな、と思ったんですけれど、
「あなたが私のおばあちゃんを呼んでくれたら、
自分のおばあちゃんだと思って、あなたを撮るから撮らせて」
って言ったら、「あ、いいよ~」って気軽に撮らせてくれて、
いい人でしたね。

【谷川】
へえ~。

【松本】
なんか、イタコさんにも人気があるみたいで、
めちゃくちゃ並んでる列と、スカスカの列があるんです。
私が並んだのはスカスカの列だったから、
当たってるかどうかわからないんですけれど(笑)。

【谷川】
はははは(笑)。

次回も、写真集には入らなかった貴重なカットを大公開!
※4月15日更新予定

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Profile


谷川俊太郎
(たにかわ・しゅんたろう)
詩人。1931年東京生まれ。詩作のほか、戯曲、テレビアニメ「鉄腕アトム」の主題歌の作詞、映画脚本、絵本・童話の創作、翻訳など、さまざまな分野で活躍している。詩集『日々の地図』で読売文学賞、翻訳『マザーグースのうた』で日本翻訳文化賞を受賞。著書多数。

松本美枝子
(まつもと・みえこ)
写真家。1974年茨城生まれ。主な受賞に写真「ひとつぼ展」入選、第6回新風舎平間至写真賞大賞受賞など。雑誌などで撮影のほか、「生死・日常・遺伝」をテーマに作品発表を続けている。個展多数開催。著書に『生あたたかい言葉で』。パブリック・コレクション:清里フォトアートミュージアム。
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