友部正人 『バス停に立ち宇宙船を待つ』
私はオープンしています
本のない本屋
灯りのついていない店
人のいない通路に
店員だけがいて
マラソン帰りに寄ったぼくに言う
私はオープンしています
座る場所ならあるから
とにかく腰をおろそう
外は風が強い
それにみんなとても疲れている
今日は朝から走りっぱなし
走った後もずいぶん歩いた
あまり食べなかったから
力がわかない
とにかく何か食べなくては
四時三十分のバスに乗る前に
そうやってちょっと気分を変えてから
君にただいまの電話をしよう
駅までの道は地図より遠い
ハンバーガーなんて食べている暇はない
まだ切符を買っていないのに
切符はとっくに売り切れていた
一人だけすました女がカウンターにいて
私はオープンしています
そうやってぼくはバスに乗り
街には帰れるが錦は飾れず
お土産といえば足の痛みか
君を思うぼくの心
その両方を乗せたまま
私はオープンしています
私もオープンしています
「私はオープンしています」 友部正人