友部正人 『バス停に立ち宇宙船を待つ』
新しい雨
君にとってはなつかしい街でも
ぼくにとっては新しい
ぼくは新しいこの街を歌う
歌ってこの街の雨になる
まだ言葉にならない声で歌う
ぼくは新しいこの街の雨になる
あなたにとっては捨てた街でも
ぼくにはまだ新しい
ぼくはこの街を拾い歩く
まだこの街では歩き疲れたことがないから
歩き疲れた靴の中には
きっとあなたにも懐かしいものが入っているよ
野良猫の住む河原には
こうもり傘のような橋がかかる
時計台のような消防署
その四つ角の長い長い赤信号
いつもぼくはここで道を間違えたかもしれないと思う
そしてその向こうに君のいた店が見えてくる
ぼくはこの街を覚えられない
だからぼくはこの街を忘れられない
君の捨てたこの街が好き
いつかぼくはこの街の雨になる
「新しい雨」 友部正人