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友部正人 『バス停に立ち宇宙船を待つ』

   宇宙船

 
 
 
ニューヨークは東京の次の日だ
一瞬とは40年間のこと
ぼくはまだ25歳である
そして君はまだ19歳
ぼくたちの年齢差だけはあの頃と変わらない

ぼくはバスに乗り損ねてここに来た
バスには停留所もなく出発時間も決まっていなかった
ただ夜、夜とだけ記されていて、
ぼくたちはみんなそれぞれその場所と時刻を見つけなければならない
バスとは宇宙船のようなものだった

バナナは真夜中でも黄色かった
りんごは真夜中なのに赤かった
ぼくは果物屋の前にいた
ぼくが見つけた場所はそこだった
目に見えないバスが近づいて来る

東京では穴は夜空に空いていて
ニューヨークでは青空に空いている
東京ではぼくは上昇して行かなければならないが
ニューヨークではさらに下降して行くのだ
そして見上げる、ぼくの宇宙船

ぼくのバス停はここにある
あのときから40年たった場所
そしてぼくは青空を見上げ
一瞬の意味を知る
それはぼくの昨日と今日を結ぶ船

「宇宙船」 友部正人