友部正人 『バス停に立ち宇宙船を待つ』
バス停に立ち宇宙船を待つ
もうだいぶ前のことになるが
ぼくはバス停に立って宇宙船を待っていた
どうしてそんなことをしたかというと
歌が行き詰っていたからだ
ぼくの歌に乗り物がなかった
どこにも行けないように気がしていた
それで真夜中を選んで宇宙船を待っていた
遠い所まで運んでもらいたい
それがどこなのかわからないけど
まわりは廃屋のように見えた
結局宇宙船は来なかったが
宇宙船を待っている感覚だけが残った
そしてぼくは今ニューヨークにいて
その感覚に乗って生きている
バス停で待つ必要はなかったんだ
感覚は個人的な乗り物である
東京では今も孤独が宇宙船のようにふくらんで
小部屋からの発進を待っているそうだ
時代は滑りやすくなっているから要注意
階段を下りる時は手すりにつかまりましょう
人間はみな発火寸前です
人の集まるところでは火器は厳禁
みんな心は張り紙だらけ
雨が降るのを待っています
ぼくたちは真夜中のバス停で
雨が降るのを待っています
「バス停に立ち宇宙船を待つ」 友部正人